前回は、昨今のモバイルノートパソコンをCPUの観点から分析して、どんな機種があるかを調べてみました。 今回はその続きで、私の選定したノートPCの紹介と、簡単なベンチマークの結果をまとめてみようと思います。
ASUS Vivobook S14
すでにタイトルにもなっていますが、私が今回購入したのはASUSのVivobook S14 M5406WA-AI9321Wという機種です。 ASUSのノートパソコンは、販売している年や型番によって、同じモデル名でも違うスペックになるので注意してください。
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主要なスペックは以下の通りです。
項目 | 仕様 |
---|---|
メーカー | ASUS |
モデル | Vivobook S14 |
型番 | M5406WA-AI9321W |
OS | Windows 11 Home |
CPU | AMD Ryzen AI 9 HX 370 12コア 24スレッド |
グラフィックス | CPU内臓グラフィックス(Radeon 890M) |
メモリ | LPDDR5 32GB(増設不可) |
ストレージ | 1TB m.2 SSD PCIe 4.0 ×4接続 |
画面サイズ | 14インチ |
解像度 | 2,880 × 1,800ドット(非タッチディスプレイ) |
リフレッシュレート | 120hz |
液晶タイプ | グレア(光沢) |
USB | USB3.2 Type-C ×1, USB4 40Gbps ×1, USB3.2 Type-A Gen1 ×2 |
外部ディスプレイ端子 | HDMI×1 |
その他接続端子 | microSDXC/SDHC/SDカードスロット×1, イヤホンジャック×1 |
Webカメラ | 207万画素 Windows Hello対応 |
消費電力 | 最大90W |
重量 | 約1.3kg |
サイズ(突起部を除く) | 幅310.5mm×奥行221.9mm×高さ13.9mm~15.9mm |
USB Type-Cで接続するタイプの電源アダプターも付属しています。
CrystalDiscInfoで確認したところ、ストレージにはSAMSUNG製のMZVL81T0HELB-00BTWというモデルが使われていました。 CPU含め、ベンチマークは後述します。
機種選定の理由
私は外出先でも開発をするということで、しっかりしたスペックのノートパソコンを求めていました。 また持ち歩きもガンガンするので、1.5kg超えするような重すぎるパソコンは対象外です。 動画編集やゲームもしないので、GPUのスペックは全く求めていません。
最重要なのはCPUパワーとメモリです。 これらがないとまともに開発ができません。 過去いろいろ検証してきた結果、最低でも8コア以上、余裕をもって12コアあればと思っていました。 メモリは最低でも32GBないとダメです。
次点でストレージの充実度も見ます。 前回のSurface laptop 2は256GBしかなく、いくつかの開発環境を突っ込んでいくと、結構ギリギリな状態での運用を求められました。 空き容量が減るとSSDは遅くなったり、寿命が縮んだりとあまり良いことがありません。 最低でも512GB、可能なら1TBほしいと思っていました。 速度も重要ですが、それよりは容量が優先、という感じです。
キーボードも結構重要視しています。 スペックを満たしたうえで、できる限り自分にとって打ちやすく、誤入力の発生しにくいものを求めていました。 モバイルノートパソコンだと、エンターキー付近や矢印キーの付近に、無理やり詰め込んだようなキー配列のものを見かけます。 こういう変なキー配列のものは、私の場合非常に使いにくく、生産性に直結するので除外です。 メーカーのWebサイトに載っている画像だと、英字配列のキーボードを掲載していることも多くあります。 日本国内向けのものと違うことも多いので、こだわりがある方は、可能であれば実機確認をしてみることを推奨します。
あと電源ボタンとDeleteキーの配置も重要視しました。 私はノートパソコンのキーを打つとき、無意識に一番右上にあるボタンをDeleteキーだと認識しているようで、運指もそういう癖が染みついてます。 最近のノートパソコンは、Deleteキー付近に電源ボタンを配置しているものが多数派です。 電源ボタンが独立しているタイプもあれば、通常のキー配列の中に電源ボタンが入っているものもあります。 通常のキー配列の中に電源ボタンが入っているものの中には、一番右上のキーが電源ボタンになっているものも多く見受けられます。 そういう配列のキーボードは、私にとって非常に使いにくいです*1。 メーカーごとに配列が決まっているかというとそうでもなく、モデルによって違うこともあり、こだわりたいなら実機を必ず確認したほうがよい項目です。
これらの評価項目と、価格のバランスを考慮した結果、今回はVivobook S14を選定しました。
性能チェック
私は特にゲームや動画編集をこのパソコンで行うわけではありません。 私の用途で影響のありそうな項目に絞って、簡単なベンチマークの取得だけ行っています。 あと現実的に使わなそうな組み合わせはベンチマークを取得していません。
CPU性能
私の用途だとCPUパワーが何よりも重要なので、いくつかのパターンで計測してみました。 まず、このパソコンは性能に影響を与える可能性のある設定項目が2つあります。 1つ目はWindowsの電源設定、2つ目はファンスピードの設定です。
電源設定は、Windowsの設定アプリを開き、 システム
> 電源とバッテリー
> 電源モード
から設定できます。
電源接続済みの状態と、バッテリー駆動の状態で、電源モードをそれぞれ設定できます。
選択できるのは 最適な電力効率
/ パランス
/ 最適なパフォーマンス
の3種類です。
デフォルトは バランス
です。
ファンスピードの設定は、プリインストールされているMyASUSアプリから行います。
MyASUSアプリを起動し、 デバイス設定
> ファンモード
からファンスピードの設定ができます。
選択できるのは フルスピードモード
/ パフォーマンスモード
/ スタンダードモード
/ ウィスパーモード
の4種類です。
デフォルトは スタンダードモード
です。
今回は、以下の組み合わせで設定して、ベンチマークを取得しました。 基本的に電源は接続状態にしてあり、デフォルト値に限ってバッテリー駆動のデータを取得しています。
バランス
×スタンダードモード
(デフォルト値)バランス
×フルスピードモード
最適なパフォーマンス
×スタンダードモード
最適なパフォーマンス
×フルスピードモード
最適な電力効率
×スタンダードモード
Cinebenchを使ってCPU性能を計測したデータは以下の通りです。 マルチの方は何度か同じ条件で計測しての平均値を掲載しています。 シングルは1回の測定値を載せています。
組み合わせ | 電源接続状態 | Cinebench R23 シングル | Cinebench R23 マルチ | Cinebench 2024 シングル | Cinebench 2024 マルチ |
---|---|---|---|---|---|
バランス × スタンダードモード |
接続 | 1,932 | 17,493 | 113 | 984 |
バランス × フルスピードモード |
接続 | 1,973 | 20,507 | 115 | 949 |
最適なパフォーマンス × スタンダードモード |
接続 | 1,937 | 17,900 | 115 | 978 |
最適なパフォーマンス × フルスピードモード |
接続 | 1,948 | 20,633 | 115 | 939 |
最適な電力効率 × スタンダードモード |
接続 | 1,327 | 18,571 | - | - |
バランス × スタンダードモード |
バッテリー | 1,493 | 18,667 | 92 | 1,053 |
まずベンチマークの全体的な傾向として、電源プランよりも冷却がしっかりできているかどうかで、性能に差が出ているように感じました。 R23で取得したデータはこの傾向がはっきり表れています。 マルチスレッドを使う場合は、CPUパワーを100%使い切れておらず、サーマルスロットを発生させつつ動作している様子が確認できました。 なので電源プランの変更より、ファンスピードを変更して冷却力を高めたほうが、より性能を出せる傾向がありました。
しかし、2024のほうになると様子が変わり、よくわからない結果になっています。 マルチではファンスピードを抑えたほうがスコアが高くなるという逆転現象が起きています。 これを私はうまく説明できないのですが、誤差と言うには少しスコアが開きすぎなようにも思います。
シングルの性能は、 バランス
、 最適なパフォーマンス
に設定してあればどの条件でもそれほど変わりませんでした。
多少の差があるように見えますが、ほぼ誤差の範囲と思います。
最適な電力効率
に設定すると、シングルの性能は大きく制限されます。
動作クロックが抑えられるような挙動を示しており、それがシングルのスコアにつながっているようです。
マルチの方は、 バランス
、 最適なパフォーマンス
では、全開で動作できるほど熱の余裕がないので、スコアの差もそれほど開きませんでした。
バッテリー駆動の場合は、 バランス
に設定しても、電源接続時の 最適な電力効率
のスコアと似た結果になりました。
2024の方は相変わらずよくわからず、マルチに至っては最高の結果をただき出すという謎の結果に。。。
ただ、シングルの動作クロックが抑えられている様子は確認できており、この辺の挙動はなんとなくつかめるのかなーと思います。
私が過去に計測してきたR23のデータと改めて比較してみると以下のようになります。 当然同じ条件で比較しているわけではないので、参考程度に眺めてください。
モデル | CPU | Cinebench R23 シングル | Cinebench R23 マルチ |
---|---|---|---|
Surface laptop 3 | Intel Core i7 1065G7 | 1,153 | 4,475 |
自作デスクトップ1 | Intel Core i7 9700K | 1,246 | 9,214 |
自作デスクトップ2 | AMD Ryzen 9 5900X | 1,622 | 21,878 |
Vivobook S14 | AMD Ryzen AI 9 HX 370 | 1,932 | 17,493 |
4年前に作った自作デスクトップ2の性能を、シングルなら余裕で超えてきてます。 さすがにマルチの性能は劣っていますが、十分すぎるほどの性能を有しているのが確認できると思います。
上記で比較しているマシンの詳細は、以下を参照してください。
また自作デスクトップ2のマシン構築に関しては、以下にまとめてあります。
ストレージ性能
CrystalDiskMarkを使って、ストレージのベンチマークを取得した結果は以下の通りです。
電源プランやファンスピードを変えて計測してみましたが、ストレージ性能には特に影響を与えませんでした。 PCIe 4.0 相当の性能が出ていますし、十分速いと思います。
キーボード
キーボードに関しては、可もなく不可もなくで、ノートパソコンとしては比較的打ちやすい部類のものだと思います。 ストロークは1.5mm程度あります。 キーの重さも結構重めで、しっかり打たないと押し込めないので、誤入力は抑えられると思います。 その分多少疲れやすさを感じます。
キー配列に起因する打ち間違いは、2週間くらい触った感じでは発生しておらず、比較的良好です。 タッチバッドが比較的大きめなので、誤って触ってしまうことを危惧していましたが、絶妙に回避してくれる場所にあり、そういった問題も発生していません。 総じて、しっかり設計された筐体であることを感じます。
スクリーン
これは非常に優秀です。 さすがに100%で表示すると文字が小さくなりすぎますが、125%くらいなら実用レベルで、かなり表示領域を広く確保できます。 150%にすると、通常のFHDディスプレイを100%で表示したのと同じになります。 解像度が高いと、このあたりを柔軟に設定できるのがよいですね。
発色もきれいです。 この辺は、あまり詳しくないので他のレビューをあたってください。
タッチはできませんが、私にとっては不要な機能ですし、画面が汚れるので、あっても使わないので問題ありません。
唯一気になるのがグレア(光沢)液晶ということです。 確かにきれいに映るので良いのですが、少し工夫しないと反射がすごいです。 この辺はまた次の記事で紹介します。
消費電力
電源供給状態でベンチマークを実行すると、コンセント付近の電力計読みで、おおよそ90W程度を消費ししています。 付属の電源のMAX値に相当する量です。 付属以外の電源を使う場合は、100Wを出せるものを選んだ方がよいと思います。
ただ、常時90Wを消費しているかというとそういうわけでもなく、熱に余裕がなくなると、消費電力が少し下がるような挙動を示します。 CPUパワーを使わない事務作業をしているだけなら、消費電力は15W~25W程度程度に収まります。 たまに50W近くまで瞬発的に消費することもありますが、一瞬で元に戻ります。 また事務作業であれば、90Wまで消費している様子は確認できていません。
なお私が普段利用しているのはAnkerのPrime Wall Charger 100Wのモデルです。 100W出せるのは1ポート接続したときだけですが、付属の電源アダプターよりはコンパクトで、持ち運びに便利で重宝しています。
付属以外の充電器を使う場合、USB Type-Cケーブルも100Wに対応したものを使いましょう。 私はCIOのケーブルを使っています。
このケーブル、片方がL字コネクターになっているので、非常に使い勝手が良いです。 Vivobook S14は筐体左側のUSB Type-Cポートを充電用に使います。 こういうL字のコネクターだと、配線の取り回しが非常に良いです。 ただ、充電用のUSB Type-Cポートの近くにはHDMIポートやもうひとつのUSB Type-Cポートがあり、状況によってはストレートなケーブルの方が良いこともあります。 この辺は普段どのような使い方をするのかによっても大きく変わってくると思います。
その他気になる点
これだけの性能の出る部品を小さい筐体に詰め込んでいることもあり、パワーを引き出そうとすると、かなり熱が発生します。 無理やり冷やすためにファンスピードを全開にもできますが、その時の音はなかなかなものです。 外でこの音がしてきたら「あのパソコン壊れた?」と思う程度の爆音です。 家で使う場合も、フルスピードで使い続けるのは、私には無理かなーと思います。
またそれほどハードに使っていなくても、排気口の付近は常時それなりの温度になります。 膝の上に直接のせて使うのは、やめておいた方が良いと思います。 突発的にCPU負荷が上がったりすると、一瞬でやけどしそうなレベルまで熱くなります。 どうしても膝に置かなければならないなら、電源プランを落とすとか、膝とパソコンの間に何か挟むとか、使い方に工夫が必要と思います。
今回取得したCPUのベンチマークは、パソコン起動後、数分間アイドル状態にして挙動が安定した状態から計測を開始しています。 パソコン起動後、多少別の作業をしてからアイドル状態になるまで待ってベンチマークをとると、CPUを100%まで使い切れていない挙動を確認しています。 熱以外にも、何か性能を出せなくさせる要因があるようですが、それが何なのか現時点ではわかっていません。 ただ、それでも十分すぎるほどの性能があるので、現状困ってはいません。 今回提示しているベンチマークの結果は、条件をしっかり整えて出したものであり、ある程度差し引いてみてもらうのがよいかなーと思います。
まとめ
というわけで、Vivobook S14のご紹介でした。 1.3kgの筐体に、少し前の高性能デスクトップに匹敵するほどの性能を詰め込んだ素晴らしいパソコンだと思います。
ただ、性能の高い分じゃじゃ馬なところがあり、結構な熱を発生させてきます。 常時全開で使っていると、部品へのダメージが心配なレベルです。 モバイルノートパソコンとして、少し熱に気を配った運用が必要なようにも思います。
*1:例えばHPのパソコンは、ほとんどが一番右上に電源ボタンがあって、今回は除外されていきました。